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契約実務

不動産売買契約の電子化ガイド|法改正のポイント、実務フロー、導入の注意点を解説

2022年1月の電子帳簿保存法改正により、帳簿書類や契約書などの電子保存に関する要件が緩和されました。さらに、同年5月の宅建業法改正により、売買契約書をはじめとする不動産関連文書も電子化が認められるなど、法的な規制によって電子化が制限されていた不動産業界においてもデジタル化が加速しています。今後、さらにオンライン取引を活用した不動産売買が活発になっていくと予想できるため、業界内での競争力を強めるためにも、不動産業界の各企業は電子化を促進していくべきといえるでしょう。

本記事では、不動産売買契約の電子化について、基礎知識から法改正の要点、具体的な業務フロー、電子化するメリットや注意点について解説します。

なお、売買契約書の書き方や種類を知りたい方は「売買契約書とは?書き方と種類を解説【Word版ひな形ダウンロード付】」もご一読ください。

売買契約書とは

売買契約書とは、企業間や企業対個人での取引において、ある商品やサービスの売買が行われる際、対価と支払われる金額や支払い方法などについて、当事者双方が同意した事項を記載した文書のことです。

品物の売買は口頭での約束や金銭の引き渡しにおいても成立しますが、特に不動産など価格が大きくなりやすい取引については、売買契約書を作成し、売買の条件や細かいルールなどを明記しておくことで、後々のトラブルを防止できます。

主な売買契約書の種類

売買契約書は、買い手がある品物やサービスを売り手から受け取り、売り手に対価を支払うという形式をとる様々な取引において作成されます。一般的に、売買の対象は、土地やマンションなどの「不動産」、不動産以外の形のある資産である「動産」、知的財産やノウハウなどの形のない「無形資産」に分けられ、主に以下のような文書が売買契約書として作成されます。

【不動産の売買契約書】
・土地売買契約書
・建物売買契約書
・土地・建物売買契約書
・不動産売買契約書
・借地権付建物売買契約書
・区分所有建物売買契約書
・土地売買予約契約書
・土地建物売買契約書
・農地売買契約書

【不動産以外の売買契約書の例】
・動産売買契約書
・売買基本契約書
・取引基本契約書
・物品売買契約書
・車両売買契約書
・株式売買(譲渡)契約書
・知的財産の譲渡に関する契約書 など

売買契約書には、取引の内容を明確に示すため、売買日、売買条件(対価の金額)、支払期日、協議事項などを記載します。

不動産売買における37条書面(売買契約書)

不動産売買においては、多くの場合で宅建業法37条書面が契約書としての役割をはたします。37条書面とは、宅地建物取引業者が、宅地または建物を売買・交付する際に発行が義務づけられている書類です。
37条書面の記載事項は、売買契約書に記載すべき事項と合致するため、実務上は37条書面の交付によって売買契約書の作成を省略するケースが多いです。

37条書面の記載必須事項および取り決めがあれば記載する事項は以下の通りです。

【記載必須事項および取り決めがあれば記載する事項】

記載必須 ・当事者の氏名・住所
・宅地建物の所在、種類、構造を特定する情報
・建物の構造耐力上主要な部分等の状況
・売買の代金額、支払期日、方法
・宅地建物の引渡しの時期
・転移登記の申請時期
取り決めがあれば記載 ・契約の解除に関する内容
・損害賠償または違約金に関する内容
・宅地または建物に係る租税その他の公課の負担に
関する内容
・代金・交換差金、借賃以外の金銭の授受がある場合、その額、授受の時期、目的
・代金または交換差金についてローンあっせんの
定めがあるときは、ローンが成立しない時の措置
・天災その他不可抗力による損害の負担に関する内容
・瑕疵担保責任(不動産に不具合があった場合の責任の所在)

法改正による不動産電子契約の全面解禁

これまで不動産取引は宅地建物取引業法をはじめとする法律により、書面の交付や押印が厳格に義務付けられていました。しかし、デジタル社会の形成を目的とした近年の法改正により、これらの規制が緩和され、電子契約の導入が法的に可能となりました。ここでは、不動産取引の電子化を解禁した主要な法改正のポイントについて解説します。

2022年宅建業法改正のポイント

2022年5月の宅建業法改正施行により、不動産売買の際に用いられる以下のような文書の電子交付が認められました。

  • 重要事項説明書(35条書面)
  • 売買契約書・賃貸借契約書(37条書面)
  • 媒介契約書(34条の2書面)
  • レインズ登録証明書 など

これらの文書の電子交付が認められたことや、2021年9月のデジタル改革関連法により押印義務が廃止されたことにより、不動産取引の円滑化が進められています。

公正証書が必要な契約と手続きのデジタル化

2022年の宅建業法改正により、ほとんどの不動産関連文書の電子化が可能になりました。その一方で、「公正証書」による締結が法律で義務付けられている契約類型が一部存在します。

  • 事業用定期借地契約
  • 任意後見契約 など

これまで上記の契約は公証役場への出頭と、紙の公正証書による締結が必須でしたが、2025年10月1日より、この公正証書の作成手続き自体がデジタル化されました。

これにより、公証役場に出頭せずとも、Web会議システムを利用したリモート方式での本人確認・意思確認が可能となり、最終的な公正証書も電子データ(電子公正証書)として作成・交付されることが可能になっています。

したがって、これまで書面での手続きが必須とされてきたこれらの契約も、公証実務のデジタル化に伴い、オンラインでの手続きが可能となっています。

不動産売買契約を電子化する4大メリット

不動産売買などにおける売買契約書を電子契約サービスにより締結する場合には、主に以下のような4つの大きなメリットがあります。従来の書面契約が抱えていた課題を解決し、業務の質を大きく向上させることが期待できます。

印紙税の非課税による大幅なコスト削減

電子化による最大のメリットの一つがコスト削減です。その中でも特に影響が大きいのが「印紙税」です。

書面での不動産売買契約書を作成・交付する際には、契約金額に応じて高額になるケースもある収入印紙の貼付が法律で義務付けられています。

しかし、電子契約は印紙税法上の「課税文書」に該当しないと解釈されています。そのため、電子契約であれば印紙が一切不要となり、印紙代をまるごと節約できます。特に取引金額が大きくなりがちな不動産売買において、このコスト削減効果は計り知れません。

業務効率化と関連コストの削減

印紙税以外にも、契約プロセス全体が効率化されることで、様々な関連コストが削減されます。

印刷・郵送コストの削減

書面契約では必須だった印刷費用、用紙代、インク代、さらには契約書をお客様へ郵送したり、手渡ししたりする際の郵送費用や交通費が不要になります。

契約締結スピードの大幅な向上

郵送や手渡しによる物理的なやり取りがなくなるため、契約締結までにかかるリードタイムが大幅に短縮されます。契約書作成から相手方の確認、署名・捺印、返送といったプロセスがオンライン上で完結し、数日〜数週間かかっていた作業が最短即日で完了することも可能です。

関連人件費の削減

適切に自動化された電子契約システムを導入すれば、契約書の作成、修正、発送、回収、そしてファイリングといった一連の煩雑な作業にかかる人件費も大幅に削減できます。

契約実務における利便性の向上

電子化は、契約実務そのものの利便性を高めます。

場所や時間を問わない契約締結

物理的な距離や時間の制約を克服できる点は、電子契約の大きな強みです。これまでは、不動産会社から遠方に住む顧客や、多忙な業務に追われる投資家にとって、契約のためだけに対面で訪問することは大きな負担でした。

電子契約であれば、インターネット環境さえ整っていれば場所や時間を問わずに契約手続きを行えます。これにより、遠方の顧客であっても契約締結までのプロセスが迅速化され、商機を逃すことなく円滑な取引が可能となります。

必要な契約書の検索が容易に

電子化された契約書は、検索性が飛躍的に向上します。従来の紙ベースでは、膨大な書類が保管されたファイルキャビネットの中から、特定の契約書を探し出すのに多大な時間と労力がかかっていました。とくに不動産売買契約は長期にわたって保管する必要がある書類のため、数十年前の紙の契約書を探し出すのが困難なケースもあります。

電子契約システムでは、取引対象の不動産、取引相手、取引日時など様々な条件でデータを瞬時に検索でき、目的の契約書をすぐに見つけ出せます。これにより、過去の取引確認や情報抽出の効率が格段に上がります。

保管・管理の効率化とコンプライアンス強化

契約書の「保管」と「管理」においても、電子化は大きな変革をもたらします。

物理的保管スペースの不要化

電子化された契約書はすべてデータとして保管されるため、物理的な保管スペースを一切必要としません。従来の紙の契約書を保管するために必須だったファイルキャビネットや専用の倉庫が不要となり、オフィススペースの有効活用や、保管場所にかかる家賃コストの削減にも繋がります。

コンプライアンスとセキュリティの強化

電子契約は、単に効率化するだけでなく、コンプライアンスとセキュリティの強化にも寄与します。電子署名とタイムスタンプにより、契約が「誰によって」「いつ」締結されたかを法的に証明し、契約の真正性と非改ざん性を強固に担保できます。

また、電子帳簿保存法の要件に準拠した形でデータを保管・管理することが可能になり、法令を遵守した適切な契約書管理体制の構築にも役立ちます。

なお、建設業界の2024年問題への対応策として電子化を促進するメリットについては、「建設業界の2024年問題とは?背景とDXによる業務効率化の方法をわかりやすく解説」を参考にしてください。

不動産電子契約の導入フロー

不動産売買の電子契約は、単にツールを導入するだけでは完結しません。法規制を遵守し、顧客の理解を得るため、以下の実務フローの構築が求められます。

1)業務フローの再構築とツールの選定

紙を前提とした従来の業務フローの見直しが必須です。どの文書を電子化し、どのタイミングで誰が署名・確認するのかを定義しましょう。

同時に、「クラウドサイン」をはじめとする、電子署名法や電子帳簿保存法の要件を満たす電子契約サービスを選定する必要があります。

2)顧客・取引関係者への説明と事前承諾

電子契約の導入において、最も重要なステップのひとつが取引先の承諾です。宅建業法では、重要事項説明書(35条)や契約書(37条)を電子交付する際、相手方の承諾が法的に必須とされています。

  • 承諾の取得方法
    メールやWebフォーム、同意書の締結など、承諾を得たことを記録に残せる方法で実施します。
  • 顧客への説明
    相手方が電子契約に不慣れな場合も想定し、メリット(印紙代不要、来店不要など)や、具体的な操作方法、セキュリティの安全性を丁寧に説明する体制を整える必要があります。

3)IT重説の実施

重要事項の説明(重説)をオンラインで行う「IT重説」を実施します。

  • 事前準備
    双方向の通信環境を確認し、事前に電子化された重要事項説明書を送付します。
  • IT重説の実施
    Web会議ツールなどを用い、宅地建物取引士は宅地建物取引士証をカメラに提示し、相手が明確に視認できたことを確認した上で説明を開始します。

4)電子署名の実施と契約締結

IT重説後、双方が契約内容に合意したら、電子契約サービスを通じて署名依頼を送付します。売主、買主、および仲介業者(宅地建物取引士)がそれぞれ電子署名を行うことで、契約が締結されます。

5)電子データの交付と保管

締結済みの契約書(電子データ)を当事者全員に電子的に交付し、サーバーやクラウドストレージで保管します。この際、電子帳簿保存法が定める要件(検索性の確保など)に従って保管する必要があります。

なお、不動産売買契約の電子化の方法を詳しく知りたい方は「【2023年10月最新】不動産取引の電子契約化はいつから?宅建業法改正で重要事項説明書等の押印廃止・電子交付が可能に」もご一読ください。

不動産売買契約を電子化する際の注意点

不動産売買契約の電子化はメリットが大きい一方で、導入にあたっては実務上の課題や法規制に関して、特に以下の5つの点に注意する必要があります。

取引先の承諾が必須

不動産売買に関連する契約書を電子契約サービスにて締結する際は、宅地建物取引業法に基づき、事前に取引先(買主・売主など)の承諾を得る必要があります。

承諾が必要な主な書類は以下の通りです。

文書名 根拠法令 必要な手続き
不動産売買・交換の媒介契約書 宅建業法34条の2第11項、同12項 承諾
不動産売買・賃貸借契約の重要事項説明書 宅建業法35条8項、同9項 承諾
不動産売買・交換・賃貸借契約成立後の契約等書面 宅建業法37条4項、同5項 承諾

もし取引先が電子契約の利用経験がない場合は、導入するサービスの詳細や、電子化によって取引先が得られるメリット(印紙代が不要になる、来店の手間が省けるなど)もあわせて丁寧に説明し、安心して同意してもらえるよう努めましょう。

業務フローの明確化・再構築が必要

契約書を電子化する際は、それに合わせて業務フローを明確にし、再構築する必要があります。

従来の紙ベースのフロー(書類作成→印刷・製本→押印→郵送→相手方の押印・返送→保管)が、電子化によって根本的に変わります。電子契約システムの操作方法、承認ルート、データの保管方法などを定めた新しい業務フローを構築し、関係者全員が閲覧・理解できるようなマニュアルを整備することが求められます。

トラブル防止のためのセキュリティ対策が必須

電子化された契約書は検索性やコスト面で紙よりも優れていますが、セキュリティ対策が不十分な場合、文書の改ざんや情報漏洩などのリスクが伴います。

取引上の重要な書類である契約書が改ざんされてしまうと、深刻なトラブルに発展する恐れがあります。「クラウドサイン」をはじめとする、電子署名やタイムスタンプによって「いつ」「誰が」「何を」契約したかを法的に証明できる、セキュリティ対策が万全な電子契約サービスを選定することが必須です。

不動産登記実務の事前確認が必要

電子契約を導入する際、契約後の「不動産登記(所有権移転登記)」の手続きフローについて、事前に司法書士と確認しておくことが重要です。これは、電子契約サービス自体に問題があるのではなく、現在の登記オンライン申請における法務局の要件と、実務上の運用にギャップがあるためです。

■現在の登記オンライン申請の仕様
不動産の所有権移転登記をオンラインで申請する際、法務局が添付情報(登記原因証明情報)として要求する電子署名は、原則として「マイナンバーカードによる署名(公的個人認証)」または「商業登記電子署名」に限られています。

■ 実務上の運用との差異
一方で、ビジネスシーンで広く利用されている電子契約サービス(クラウドサインなど)の多くは、利便性の高い「立会人型(事業者型)」の電子署名を採用しています。この署名タイプは、契約の証拠力としては十分なものですが、そのままでは上記の登記オンライン申請の要件を満たしません。

■ 結論と実務上の対処法
電子契約サービスで「売買契約」を締結すること自体は、宅建業法上も合法的に可能です。

その後の登記申請実務においては、多くの場合、司法書士が登記手続きを代行します。その際、電子契約書そのものを登記申請に使うのではなく、以下のような方法で対応するのが一般的です。

  1. 電子契約書(売買契約書)を締結する。
  2. 登記申請のために、司法書士が別途「登記原因証明情報」(売買契約の内容を記したもの)や「登記委任状」を作成する。
  3. その別様式に対し、売主・買主が(紙で)署名・押印するか、または登記申請の要件を満たす電子署名を行う。

■ 導入時に重要なこと
このように、電子契約を導入しても、登記実務は従来と異なるフロー(多くは司法書士との連携)で問題なく完結できます。

重要なのは、この点を理解し、「契約は電子、登記手続きは司法書士と連携した別フロー」という運用を、事前に司法書士など関係者と確立しておくことです。これにより、導入後の現場の混乱を防ぎ、スムーズな取引を実現できます。

5. 電子帳簿保存法の要件を遵守した保管が必要

契約書を電子データとして保存する際は、電子帳簿保存法に則って行う必要があります。

特に、適切なタイムスタンプの付与や訂正削除の履歴が残るシステムを利用するなど、改ざんを防止するための「真実性の確保」が求められます。

電子帳簿保存法の要件に違反した場合、追徴課税などの罰則を受けるリスクもあります。法律を遵守するためにも、電子帳簿保存法の要件に対応した適切な電子契約サービスを利用してください。

なお、電子帳簿保存法で定められたデータ保存の要件については「電子帳簿保存法で定められた契約書の「データ保存」要件とは 適法な保管・保存方法を解説」で解説していますのであわせてご一読ください。

不動産業界における電子契約の導入事例

電子契約の導入は、多くの不動産事業者の業務効率化に貢献しています。クラウドサインを導入して成功した事例をいくつかご紹介します。

  • 三菱地所株式会社様
    導入1年で数千件の契約を電子化。契約処理のための出社が不要となり、テレワーク下での業務継続性を実現しました。
  • 株式会社千葉ステーションビル様
    年間1000件を超える「ペリエ」のテナント契約(定期建物賃貸借契約など)の更新業務にクラウドサインを導入。契約締結までの期間が1〜2日に大幅短縮されたほか、アラート機能によるシステマチックな契約管理を実現しました。
  • 株式会社MJE様
    シェアオフィス運営などの不動産ソリューション事業を展開。オフィス機器のメンテナンス時における「作業完了報告書」の署名・承認プロセスに導入し、従来2〜3日かかっていた処理が現場で即時完結。管理部門の催促業務の削減と、将来的なデータ活用基盤の構築を実現しました。

まとめ

本記事では、売買契約書を電子契約で締結するメリットや、法改正の背景、実務上の具体的なフローと注意点について解説しました。2022年の宅建業法改正に伴い、不動産業界でも各種書類の電子化が本格化しています。

特に「不動産登記」との兼ね合いなど、専門的な知識が必要な領域もありますが、印紙代の削減や業務効率化といったメリットは計り知れません。

自社の状況にあった電子契約サービスを導入し、不動産DXの第一歩として、契約業務の変革を進めていきましょう。

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