電子契約入門—第6回:電子署名を用いるタイプの電子契約の利用方法

投稿日:

島田法律事務所パートナー弁護士 圓道至剛先生執筆による「電子契約入門」。前回で、主に、電子署名を用いるタイプの電子契約の各種類を対象として、それぞれにつき「二段の推定」が及ぶか否かを説明しました。第6回は、電子署名を用いるタイプの電子契約の各種類を対象に、それぞれの特徴と具体的な利用方法を説明します。

当事者署名型電子契約の特徴と具体的な利用方法

(1)当事者署名型電子契約の特徴

当事者署名型電子契約の場合、契約当事者が、契約締結の証として、契約当事者の署名鍵を用いて、契約のために作成された電磁的記録(契約書PDFファイル)に電子署名を付与することにより契約を締結します。

それゆえ、当事者署名型電子契約を行おうとする各当事者は、契約締結に先立って、それぞれ、自らの署名鍵を用いて電子署名を付与することの準備を行う必要があることになり、具体的には、自ら又は電子契約事業者を通じて、電子証明書の発行等業務を行う認証機関(認証局)に対して電子証明書の発行を申請し、認証局による本人確認(※)を受けた上で、電子証明書を取得する必要があります。

※ ただし、電子契約の種類によっては、契約の一方当事者が認証局としても機能し、契約の相手方当事者に対して電子証明書を発行する場合もあります。また、(第三者機関である)認証局が電子証明書の発行等業務を全て行うのではなく、その業務の一部(本人確認等)を登録局(Registration Authority)という別の主体に担わせるケースもあります。そして、契約の一方当事者が認証局又は登録局となる電子契約サービスの場合には、(第三者機関である認証局・登録局ではなく)契約の一方当事者が契約の相手方当事者の本人確認等を行うことになります。

認証局が発行する電子証明書には、認証局のデータや、公開鍵のデータ、そして公開鍵の帰属主体たる個人を示すデータなどが含まれ、認証局によるデジタル署名が付与されています。それゆえ、認証局による認証業務が適切に行われている限りにおいて、この電子証明書によって、公開鍵の帰属主体を確認することができ、ひいては(当該公開鍵とペアとなる)秘密鍵の帰属主体を確認することができることになります。

なお、連載第5回において言及したとおり、当事者署名型電子契約には、ローカル署名型とリモート署名型があります。

ローカル署名型とは、電子署名をするための秘密鍵が「ローカル」(電子契約サービスの利用者の手元)にある方式であり、ICカードなど、利用者の手元にあるデバイスの中に電子署名をするために必要なデータ(署名鍵)が入っています。そして、利用者は、自らの手元にあるコンピューターを利用して、電子署名を付与することになります。

これに対して、リモート署名型とは、電子署名をするための秘密鍵が「リモート」(電子契約事業者の使用するクラウド上のサーバーコンピューターなど、利用者から離れたところ)にある方式であり、契約当事者は、(自らの手元にあるコンピューターを利用して)インターネットを通じて当該サーバーコンピューター等にアクセスし、電子契約サービスにログインした上で、当該署名鍵を用いるためのPINコード等を使って電子署名を付与することになります。

(2)当事者署名型電子契約の具体的な契約締結フロー

当事者署名型電子契約の具体的な契約締結フローは、利用する方法(電子契約サービスなど)によって様々です。以下では、例として、ある電子契約事業者が提供する電子契約サービスにおける、当事者署名型電子契約(リモート署名型)の具体的な契約締結フローを説明します。

ここでは、契約当事者を「A」と「B」とし、Aは当該電子契約サービスの既存のユーザーであって既にユーザー登録を行い認証局から電子証明書の発行を受けており、Bはこれまで当該電子契約サービスを利用したことがなく電子証明書の発行を受けていないことを前提とします。そして、Aが当該電子契約サービスの利用をBに求める場面を想定します。

① 契約締結準備段階のフロー

まず、Aは、Bに対して、特定の電子契約サービスを利用して契約を締結することを求め、Bをして、電子契約サービスの利用申請を電子契約システムに対して行わせます。

Bが電子契約システムにアクセスして、当該電子契約システムに対して電子契約サービスの利用申請をすると、認証局(あるいは登録局)はBの本人確認等の審査を行い、その上で認証局はBに対して電子証明書を発行します。

② 個別的な電子契約締結のフロー

Aは、予めBとの間で協議して合意した内容に従って、契約書PDFファイルを作成し、これを電子契約システムにアップロードします。

Aは、電子契約システムを操作して、当該契約書PDFファイルに対し、契約締結の証として、電子署名を付与します(この時点で、自動的にタイムスタンプも付与されます。)。

すると、電子契約システムによって、Bに対して自動的に電子メールが送付され、電子契約システムにアクセスして契約締結行為をするようにとの案内がされます。

Bは、当該電子メールの案内に従って、電子契約システムにアクセスして、契約書PDFファイルの内容を確認した上で、契約締結の証として、電子署名を付与します(この時点で、自動的にタイムスタンプも付与されます。)。

このようにして契約当事者双方によって電子署名が付与された契約書PDFファイルは、時刻認証局(TSA)による保管タイムスタンプが付与された上で、電子契約システム上に保管されます。

事業者署名型(立会人型)電子契約の特徴と具体的な利用方法

(1)事業者署名型(立会人型)電子契約の特徴

事業者署名型(立会人型)電子契約の場合、契約当事者が、契約締結の証として、電子契約事業者に対して契約書PDFファイルに対して電子署名を付与するよう求め、これを受けて電子契約事業者が(契約当事者の署名鍵ではなく)電子契約事業者の署名鍵を用いて、契約のために作成された電磁的記録(契約書PDFファイル)に電子署名を付与することにより契約を締結します。

それゆえ、事業者署名型(立会人型)電子契約を行おうとする各当事者は、契約締結に先立って、電子証明書を取得する必要はないことになります。この点が、当事者署名型電子契約と事業者署名型(立会人型)電子契約との大きな違いであり、それ以外の電子契約締結のフローは、当事者署名型電子契約(リモート署名型)と概ね同じです。

ここで、事業者署名型(立会人型)電子契約の場合、電子契約事業者による電子署名が契約の各当事者の氏名及び電子メールアドレスと紐付けられることにより、誰による契約締結の意思表示の証であるかを確認することができる建て付けとなっていますので、電子契約サービスを利用して契約を締結する際に各当事者が用いる電子メールアドレスが重要な意味を有することになります。

(2)事業者署名型(立会人型)電子契約の具体的な契約締結フロー

事業者署名型(立会人型)電子契約の具体的な契約締結フローも、利用する電子契約サービスによって様々です。以下では、例として、ある電子契約事業者が提供する電子契約サービスにおける、事業者署名型(立会人型)電子契約の具体的な契約締結フローを説明します。

ここでは、契約当事者を「A」と「B」とし、Aは当該電子契約サービスの既存のユーザーであって既にユーザー登録を行っており、Bはこれまで当該電子契約サービスを利用したことがなくユーザー登録をしていないことを前提とします。そして、Aが当該電子契約サービスの利用をBに求める場面を想定します。

① 契約締結準備段階のフロー

まず、Aは、Bに対して、必要に応じて本人確認等を行った上で、特定の電子契約サービスを利用して契約を締結することを求め、その際、AとBはそれぞれが契約締結に用いる電子メールアドレスについて合意します。

なお、このサービスの場合、Bのユーザー登録は必須ではありませんので、Bが当該電子契約サービスのユーザー登録をするか否かは任意となります。

② 個別的な電子契約締結のフロー

Aは、予めBとの間で協議して合意した内容に従って、契約書PDFファイルを作成し、これを電子契約システムにアップロードします。その際、Aは、Bの氏名や電子メールアドレス等を電子契約システムに登録します。

Aは、電子契約システムを操作して、当該契約書PDFファイルに対し、契約締結の証として、電子署名を付与するよう、電子契約事業者に求めます(ウェブサイト上でボタンをクリックするのみです。)。これにより、当該契約書PDFファイルに対して、当該システム上で自動的に電子契約事業者の署名鍵による電子署名(Aの氏名及び電子メールアドレスと紐付いたもの)が付与されます(この時点で、自動的にタイムスタンプも付与されます。)。

すると、電子契約システムによって、Bに対して自動的に電子メールが送付され、電子契約システムにアクセスして契約締結行為をするようにとの案内がされます。

Bは、当該電子メールの案内に従って、電子契約システムにアクセスして、契約書PDFファイルの内容を確認した上で、契約締結の証として、電子署名を付与するよう、電子契約事業者に求めます(ウェブサイト上でボタンをクリックするのみです。)。これにより、当該契約書PDFファイルに対して、当該システム上で自動的に電子契約事業者の署名鍵による電子署名(Bの氏名及び電子メールアドレスと紐付いたもの)が付与されます(この時点で、自動的にタイムスタンプも付与されます。)。

このようにして契約当事者双方の求めに応じて電子契約事業者によって電子署名が付与された契約書PDFファイルは、時刻認証局(TSA)による保管タイムスタンプが付与された上で、電子契約システム上に保管されます。

当事者指示型電子契約の特徴と具体的な利用方法

(1)当事者指示型電子契約の特徴

当事者指示型電子契約の場合、基本的な建付けは事業者署名型(立会人型)電子契約と同様ですが、「二段の推定」が及ぶようにするために、3条Q&Aの示すところを踏まえて、利用者が2要素認証を受けなければ措置(電子署名)を行うことができない仕組みとなっているなど、一定のプロセスを経る仕組みとなっていること(※)が特徴です。

※ 連載第5回で説明したとおり、3条Q&Aは、要旨、事業者署名型(立会人型)電子契約について電子署名法3条が適用されるためには、そこで付与される電子署名が2条電子署名に該当することを前提に、「当該サービスが十分な水準の固有性を有していること(固有性の要件)が必要であると考えられる」としており、具体的には、「①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス及び②①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセスのいずれにおいても十分な水準の固有性の要件が満たされている必要があると考えられる」としています。2要素認証の利用は、上記①のプロセスの固有性があると認められ得ると考えられる一つの例として示されているものであり、他の方法によることでも固有性の要件を満たすことは可能と考えられることには注意が必要です。

(2)当事者指示型電子契約の具体的な契約締結フロー

当事者指示型電子契約のサービスを提供している電子契約事業者はまだ少ないと思われますが、当事者指示型電子契約の具体的な契約締結フローも、利用する電子契約サービスによって様々であることになるものと思われます。以下では、例として、ある電子契約事業者が提供する電子契約サービスにおける、当事者指示型電子契約の具体的な契約締結フローを説明します。

ここでは、契約当事者を「A」と「B」とし、Aは当該電子契約サービスの既存のユーザーであって既にユーザー登録を行っており、Bはこれまで当該電子契約サービスを利用したことがなくユーザー登録をしていないことを前提とします。そして、Aが当該電子契約サービスの利用をBに求める場面を想定し、AもBも2要素認証を経ることとします。

① 契約締結準備段階のフロー

まず、Aは、Bに対して、必要に応じて本人確認等を行った上で、特定の電子契約サービスを利用して契約を締結することを求め、その際、AとBはそれぞれが契約締結に用いる電子メールアドレスについて合意します。

このサービスの場合、2要素認証を利用するためには、AのみならずBも当該電子契約サービスのユーザー登録が必要となるため、Bもユーザー登録をします。

また、このサービスでは、AとBそれぞれが、2要素認証のために、スマートフォンアプリである「Google Authenticator」(iOS端末の場合。Android端末の場合には、「Google 認証システム」)をスマートフォンにダウンロードをした上で、コンピューターのウェブブラウザ上で電子契約システムにアクセスして、その表示されるところに従い、2要素認証を利用するための設定行為を行います。

② 個別的な電子契約締結のフロー

Aは、予めBとの間で協議して合意した内容に従って、契約書PDFファイルを作成し、電子契約システムに2要素認証を経てログインした上で、契約書PDFファイルを電子契約システムにアップロードします。その際、Aは、Bの氏名や電子メールアドレス等を電子契約システムに登録し、また、Bにおいても2要素認証を経ることを求める設定を行います。

Aは、電子契約システムを操作して、当該契約書PDFファイルに対し、契約締結の証として、電子署名を付与するよう、電子契約事業者に求めます(ウェブサイト上でボタンをクリックするのみです。)。これにより、当該契約書PDFファイルに対して、当該システム上で自動的に電子契約事業者の署名鍵による電子署名(Aの氏名及び電子メールアドレスと紐付いたもの)が付与されます(この時点で、自動的にタイムスタンプも付与されます。)。

すると、電子契約システムによって、Bに対して自動的に電子メールが送付され、電子契約システムにアクセスして契約締結行為をするようにとの案内がされます。

Bは、当該電子メールの案内に従って、電子契約システムに2要素認証を経てログインした上で、契約書PDFファイルの内容を確認し、契約締結の証として、電子署名を付与するよう、電子契約事業者に求めます(ウェブサイト上でボタンをクリックするのみです。)。これにより、当該契約書PDFファイルに対して、当該システム上で自動的に電子契約事業者の署名鍵による電子署名(Bの氏名及び電子メールアドレスと紐付いたもの)が付与されます(この時点で、自動的にタイムスタンプも付与されます。)。

このようにして契約当事者双方の求めに応じて電子契約事業者によって電子署名が付与された契約書PDFファイルは、時刻認証局(TSA)による保管タイムスタンプが付与された上で、電子契約システム上に保管されます。

なお、上記のフローのとおりにAとBの双方が2要素認証を利用していることは、契約書PDFファイルをAdobe acrobat readerなどのソフトウエアで開いた上で、「署名パネル」を見ることで、確認することができます。

電子署名を用いるタイプの電子契約の各方式の比較

(1)各方式のメリット・デメリット

連載第5回で説明したとおり、当事者署名型電子契約や当事者指示型電子契約には、「二段の推定」が及ぶ(と解されている)というメリットがあります。しかし、当事者署名型電子契約には、契約の双方当事者が電子証明書(とこれに対応する署名鍵)を取得し、維持する必要があるという負担のデメリットがあり、また、当事者指示型電子契約には電子契約システムにログインする際に2要素認証を経る必要があるなどの手間がかかるというデメリットがあります。

これに対して、事業者署名型(立会人型)電子契約は、契約の双方当事者において電子証明書(とこれに対応する署名鍵)を取得・維持する必要がないために、導入及び継続が容易であり、また、電子契約システムにログインする際に2要素認証を経る必要がないために手間がかからない、というメリットがあります(また、電子契約サービス利用時の費用面でも有利であることが通常です。)。しかし、「二段の推定」が及ばないため、電子契約の「成立の真正」を契約の相手方当事者から争われた場合には、「二段の推定」を用いることなく「成立の真正」を立証しなければならない負担があるというデメリットがあります。

(2)選択・使い分けを検討する際の着目点

それでは、電子署名を用いるタイプの電子契約を利用するとして、当事者署名型電子契約、事業者署名型(立会人型)電子契約、当事者指示型電子契約のいずれを選択すべきでしょうか(あるいは、複数の種類を利用するとして、どのように使い分けるべきでしょうか)。

上記の選択・使い分けを検討する際の着目点は、「二段の推定」との関係をどの程度重視すべきか、であると考えられます。

そもそも、契約書PDFファイルを証拠として利用する場面は、主として、契約を巡る紛争が発生したときです。そして、契約を巡る紛争は、ⓐ契約の締結・成立それ自体が争われる場合と、ⓑ契約の内容等が争われる場合に大別されます。前者の紛争は、まさに契約書PDFファイルの「成立の真正」が争われる場面であり、「二段の推定」が及ぶか否かが大きく関係することになります。一方で、後者の紛争は、契約当事者間において契約が有効に成立したことを前提として、例えば「契約書外の口頭の合意があった」とか、「ある規定・文言の解釈に争いがある」などとして争われるものであり、契約書PDFファイルの「成立の真正」には争いはなく、それゆえ「二段の推定」は(直接的には)関係しないことになります。

したがって、契約の相手方当事者の本人確認が十分に行われており、当該電子契約外の事情などから相手方当事者が契約書PDFファイルの「成立の真正」を争うことが想定されがたいといえる場合であれば、電子契約の利用において、「二段の推定」との関係をそれほど重視する必要はないと考えられます。

例えば、グループ会社間の契約であるとか、会社と従業員の間の契約、過去に取引実績のある当事者間の継続的な契約であれば、契約の相手方当事者が契約書PDFファイルの「成立の真正」を争うことが想定されがたいといえ、上記の「二段の推定」との関係をそれほど重視する必要のない契約ということができると思われます。

また、相手方当事者の本人確認を実施した上で、基本契約を「紙の契約書」で締結し、当該基本契約の中で「個別契約は事業者署名型(立会人型)電子契約で締結すること」及び「当該電子契約で利用する電子メールアドレス」を規定しておくという方法を採る場合も、やはり契約の相手方当事者が契約書PDFファイルの「成立の真正」を争うことが想定されがたいといえ、「二段の推定」との関係をそれほど重視することなく、個別契約を事業者署名型(立会人型)電子契約で締結することは可能であると考えられます。

そして、例えば、融資契約の場合において、融資金を借主の銀行口座に振り込むタイプの取引など(※)は、銀行口座開設時に本人確認が実施されており、かつ、借主としても金銭授受の事実(銀行口座への入金の事実)を事後的に争いがたいことから、同様に、相手方当事者が契約書PDFファイルの「成立の真正」を争うことが想定されがたいといえ、「二段の推定」との関係をそれほど重視する必要はなく、事業者署名型(立会人型)電子契約の利用が可能であるといえます。

※ 連載第3回のコラム「電子署名を用いるタイプの電子契約の利用の広がり」でも言及したように、最近では銀行による住宅ローン契約にも、事業者署名型(立会人型)電子契約が利用されるようになっています。一方で、一回的取引が多く、契約の相手方当事者の本人確認につき問題が生じるリスクがそれなりにあると考えられる場合には、「二段の推定」との関係を重視して、当事者署名型電子契約を採用することが考えられるところです。

 

コラム:「二段の推定」をどの程度重視すべきか(著者の私見)

前回(連載第5回)と今回では、電子契約と「二段の推定」の関係について、一般的な理解と思われるところを、紙幅を割いて説明してきました。

これは、電子契約事業者や、電子契約の導入を検討する企業・組織等の担当者と話をしていると、電子契約について「二段の推定」が及ぶか否かを気にする方が非常に多いように感じられることによるものです。

しかし、著者の私見としては、一回的取引が多いなど、契約の相手方当事者の本人確認を自社で十分に行うことが難しいような事情のある利用者あるいは契約類型を除き、多くの利用者・契約類型では、「二段の推定」との関係をそれほど重視する必要はなく、広範に事業者署名型(立会人型)電子契約の導入が可能であると考えています。そのように考える理由の要旨は、以下のとおりです。

①実務上「二段の推定」が問題となる場面は限定的である

 

既に述べたとおり、契約を巡る紛争は、ⓐ契約の締結・成立それ自体が争われる場合と、ⓑ契約の内容等が争われる場合に大別されるところ、「二段の推定」が問題となるのは、前者の紛争であって、後者の紛争では(直接的には)関係しません。

そうであるところ、実務上、契約を巡る紛争として、ⓐ契約の締結・成立それ自体が争われる場合はあまり多くなく、紛争の大半は、ⓑ契約の内容等が争われる場合です。そして、契約の相手方当事者の本人確認が十分に行われているようなケースで、そのような相手方当事者から「自分はそのような契約をしていない」「無権限者が自分になりすまして契約を締結したのである」などとして、事後的にⓐ契約の締結・成立それ自体が争われる場合というのは、相手方当事者が経済的に追い込まれた状況の下で理由なくその類の主張をする場面(※)を除いては、基本的には想定し難いところです。

※このような場面であれば、仮に契約の相手方当事者が契約の締結・成立それ自体を争っていたとしても、相手方当事者が虚偽主張をする動機(経済的に追い込まれた状況にあること)を裁判所に説明すること等を通じて、「二段の推定」によることなく契約書PDFファイルの成立の真正を証明することは比較的容易であると考えられます。

以上からすると、実務上、契約相手方の本人確認が十分におこなわれているケースでは、契約を巡る紛争において「二段の推定」が問題となる場面は相当程度限定的であるものと考えられます。

②いずれにせよ「成立の真正」を争われた場合には「二段の推定」に頼らない立証が必要である

 

連載第2回で「「二段の推定」に頼りすぎてはならない」という点を説明しました。文書の場合と同様に、契約書PDFファイルの場合も、契約の相手方当事者からその「成立の真正」を争われた場合には、(「二段の推定」に依ることなく)当該契約書PDFファイル以外の証拠によって契約書PDFファイルの「成立の真正」を証明できるように、予め必要な証拠を揃えておく必要があります。(※)

※このように必要な証拠を揃えておけば、契約の相手方当事者としても、仮に契約書PDFファイルの「成立の真正」を争ったとしても、容易に「成立の真正」を証明されてしまうことから、無理に契約書PDFファイルの「成立の真正」を争おうとはしなくなる、という副次的効果があり、それゆえに上記①で述べたとおり、実務上、契約を巡る紛争として、ⓐ契約の締結・成立それ自体が争われる場合はあまり多くないものと考えられます。

そうである以上、(契約の相手方当事者の本人確認の証拠を含めて)必要な証拠を揃えておけば、「二段の推定」に頼る必要はないということが可能であると考えられるところです。

③「成立の真正」の証明は相当程度容易である

 

そもそも、連載第2回で述べたとおり、「二段の推定」は、文書の「成立の真正」を証明するために、立会人などの適切な証拠が常にあるとは限らないことを勘案して、その「成立の真正」を直接に証明することに代えて用いられるものです。

そうである以上、立会人などの適切な証拠があるのであれば、これにより「成立の真正」を直接に立証すれば良いのであって、あえて「二段の推定」を用いる必要はない、という考えが成り立ち得るところです。

事業者署名型(立会人型)電子契約の場合には、利害関係のない第三者としての電子契約事業者が、契約当事者による契約締結行為の各過程において契約書PDFファイルに対して機械的に電子署名を付与することから、契約締結行為の場面において立会人のような役割を果たすことになります。それゆえ、電子契約事業者による電子契約サービスの内容や契約締結行為の各過程の説明が提供されれば、契約書PDFファイルの「成立の真正」を証明する上での重要な証拠となります。

そして、連載第5回で説明した、2条Q&Aを踏まえて、2条電子署名該当性が認められるような事業者署名型(立会人型)電子契約のサービスであれば、当該サービスの利用者が誰か、利用日時はいつか、などといった情報が契約書PDFファイルに付随情報として含まれており、契約書PDFファイルをAdobe acrobat readerで開いて「署名パネル」を表示することでそれらの付随情報を確認することができますので、これも重要な証拠となります。なお、電子署名に改ざん防止機能があることについては、連載第4回で説明したとおりです。

以上のことからして、事業者署名型(立会人型)電子契約において用いられる契約書PDFファイルの「成立の真正」を証明することは、契約の相手方当事者の本人確認を自社で行っていることを前提とすれば、相当程度容易であるということができます。

著者の理解では、当事者署名型電子契約と事業者署名型(立会人型)電子契約の最も大きな違い(本質的な違い)は、契約の相手方当事者の本人確認を、第三者機関としての認証局が行うのか、それとも(電子契約サービスの)利用者本人が行うのか、という点です。しかしながら、既述のとおり、当事者署名型電子契約の場合であっても、契約の一方当事者が契約の相手方当事者の本人確認を行うタイプの電子契約サービスもあることから、上記の「違い」は相対的なものとも評価することができます。また、当事者署名型電子契約の場合であっても、署名鍵を格納したデバイスや署名鍵を用いるためのPINコード等の管理方法に問題があれば、(連載第2回で言及した)実印の管理方法に問題がある場合と同様に、「二段の推定」は覆されてしまうことになるので、当事者署名型電子契約を利用すれば安心という訳ではありません。

結局のところ、契約の相手方当事者の本人確認はどのような電子契約サービスを利用するに当たっても慎重に行う必要があるところ、当事者署名型電子契約の場合には(程度の差はあるとしても)第三者機関としての認証局の助力を得られることが多いのに対し、事業者署名型(立会人型)電子契約の場合にはそのような助力を得られないので自ら契約の相手方当事者の本人確認を慎重に行う必要があるという点に注意して、電子契約サービスを選択すべきことになると考えられるところです。

連載記事一覧

著者紹介

圓道 至剛(まるみち むねたか)

2001年3月 東京大学法学部卒業
2003年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2009年4月 裁判官任官
2012年4月 弁護士再登録(第一東京弁護士会)、島田法律事務所入所
現在 島田法律事務所パートナー弁護士

民事・商事訴訟を中心に、金融取引、不動産取引、M&A、日常的な法律相談対応などの企業法務全般を取り扱っている。

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。