電子契約入門—第7回:どの契約を電子化するか・どの電子契約サービスを利用するか

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島田法律事務所パートナー弁護士 圓道至剛先生執筆による「電子契約入門」。

前回は、電子署名を用いるタイプの電子契約の各方式について、それらの特徴と具体的な利用方法を説明した上で、各方式のメリット・デメリットを比較しました。今回は、電子契約サービスを利用するとして、どの契約を電子化するか、そして、どの電子契約事業者が提供する電子契約サービスを利用するかなどについて、説明します。

どの契約を電子化するか

まず、様々な契約類型があるところ、どの契約を電子化するか(換言すれば、どの契約は電子契約を用いることはできず、「紙の契約書」で契約締結すべきか)を検討することとします。

(1)原則と実務対応

連載第1回で説明したとおり、私法上、契約は原則として当事者の意思の合致により成立するものであり(民法522条1項参照)、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除いては、書面の作成その他の方式を具備することを要しないとされています(民法522条2項参照)。

このことからすると、契約締結の方法として、「紙の契約書」による契約と同様に、様々な契約類型において、広く電子契約を利用できることが原則といえます。

例外は、上記のとおり、「法令に特別の定めがある場合」です。以下の(2)では、法令において書面によることが要求されているために、現時点では電子契約を用いることができないものの例を列挙します。また、以下の(3)では、契約の相手方の承諾を得ること等を条件として、電子契約を利用できるという類型に該当するものの例を列挙します。

なお、以下で列挙したものはあくまで例示であり、ここに記載のないものでも電子契約を用いることができないものがあり得ますので、個別的な確認が必要です。また、以前は法令によって書面によることが要求されていたものであっても、法令の改正等によって、電子契約を利用できる(あるいは、相手方の承諾を得ること等を条件として、電子契約を利用できる)ようになっているものもありますので、その時々での最新の情報を確認する必要がある点にはご注意ください。

そして、上記のとおり「原則として電子契約を利用可」であり、「例外的に電子契約を利用不可のものもある」、という建前からすれば、本来的には、各社の社内ルールにおいて、「この類型の契約(や書面)は電子契約サービスの利用は不可」と規定する「ネガティブリスト」方式の運用をすることで足りるはずですが、実務的には、事務過誤をできるだけ抑制する観点から、(少なくとも社内の実務担当者が電子契約サービスの利用に習熟するまでの間は)各社の社内ルールにおいて「この類型の契約(や書面)は電子契約サービスの利用は可」と規定する、「ポジティブリスト」方式の運用の方が無難であると思われ、著者は、社内ルールの規定の仕方について尋ねられたときには、上記の「ポジティブリスト」方式の運用を推奨しているところです。

(2)現時点では電子契約を用いることができないものの例

  • 宅地建物の売買・交換の媒介契約書(宅建業法34条の2)
  • 宅地建物の売買・交換の代理契約書(宅建業法34条の3)
  • 宅地建物の売買・交換・賃借の際の重要事項説明書(宅建業法35条)
  • 宅地建物取引業者の交付書面(宅建業法37条)
  • 定期借地権設定契約書(借地借家法22条)
  • 事業用定期借地権設定契約書(借地借家法23条)
  • 定期建物賃貸借契約書(借地借家法38条1項)
  • 定期建物賃貸借契約の際の説明書面(借地借家法38条2項)
  • 取壊し予定建物賃貸借契約における「取り壊すべき事由」を記載した書面(借地借家法39条2項)
  • 訪問販売等(※)の際の交付書面・契約書(特定商取引に関する法律4条、5条、18条、19条、37条、42条、55条、58条の7)

※ 訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引及び訪問購入。

(3)現時点では契約の相手方の承諾を得ること等を条件として電子契約を利用できるものの例

  • 建設工事の請負契約書(建設業法19条3項、同法施行規則13条の4)
  • 旅行契約の説明書面(旅行業法12条の4、12条の5、同法施行令1条等)
  • マンション管理業務委託契約書(マンションの管理の適正化の推進に関する法律72条、73条)
  • 下請事業者に対して交付する「給付の内容」等記載書面(下請代金支払遅延等防止法3条2項)
  • 不動産特定共同事業契約の成立前交付書面・成立時交付書面(不動産特定共同事業法第24条、第25条)
  • 投資信託約款の内容等を記載した書面(投資信託及び投資法人に関する法律5条)
  • 労働条件通知書(労働基準法15条1項、同法施行規則5条4項)
  • 派遣労働者への就業条件明示書面(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律34条、同法施行規則26条1項2号)
  • 貸金業法の契約締結前交付書面(貸金業法16条の2第4項)
  • 貸金業法の生命保険契約等に係る同意前の交付書面(貸金業法16条の3第2項)
  • 貸金業法の契約締結時交付書面(貸金業法17条7項)
  • 貸金業法の受取証書(貸金業法18条4項)
  • 割賦販売法3条2項・3項・同法4条各項の書面(割賦販売法4条の2)
  • 割賦販売法35条の3の8・同法35条の3の9第1項・3項の書面(割賦販売法35条の3の22)

どの電子契約サービスを利用するか

電子署名を用いるタイプの電子契約の各方式の比較について連載第6回で述べたところですが、どの方式の電子契約サービスを利用するかを選択した後には、具体的にどの電子契約事業者の提供する電子契約サービスを導入するかを選定する必要があります。

具体的な電子契約サービスの選定に際しては、①電子契約サービスに求める機能と②利用料金の多寡などを考慮して、いくつかの候補に絞り込み、それらの候補となる電子契約サービスを提供する電子契約事業者に連絡して、(試用が可能であれば)試用してみることを通じて、③使い勝手の善し悪し等を検討する、というステップを経ることになると思われます。

以上で示した主な考慮要素のほか、著者が注意すべきと考える考慮要素は以下のとおりです。

(1)電子契約サービスの内容等の説明可能性

電子契約サービスを選定する際には、当該電子契約サービスの内容や仕組みを取引先や(民事訴訟になった場合には)裁判所に説明する場面を想定して、それらを説明するために必要な情報を容易に入手できるかという点も考慮要素となります。

多くの電子契約事業者は、そのウェブサイト等において、提供する電子契約サービスの内容や仕組みに関する情報を提供していますので、それらの情報が十分なものであるかを確認する必要があります。

特に、民事訴訟において電子契約を証拠として裁判所に提出する場合には、同時に、当該電子契約サービスの内容や仕組みを説明する、ある程度まとまった資料を証拠として提出することが望ましいと考えられますので、電子契約事業者において、そのような資料を提供する用意があるか否かも考慮すべきポイントとなります。

例えば、弁護士ドットコム株式会社の「クラウドサイン」の場合には、著者が監修した「クラウドサインによる電子契約の締結等に関する説明書」(訴訟サポート資料。連載第4回・第5回参照。※)がウェブサイト上に公開されています。

https://www.cloudsign.jp/pdf/litigation_support_documents.pdf

また、他の著名な電子契約サービスの場合、その電子契約事業者のウェブサイト上において、訴訟になった場合には「ソリューションについての説明」や「宣誓供述書の作成」、「PMK(最も知識豊富な人)としての出廷、証言など」を提供する旨が述べられています。

具体的な電子契約サービスの選定の際には、電子契約事業者に対して、民事訴訟になった場合に具体的にどのような支援があり得るかについて、確認しておくことも考えられるところです。

(2)電子契約事業者の信頼性

具体的にどの電子契約事業者の提供する電子契約サービスを導入するかを選定する際には、電子契約事業者の規模や経営方針等を踏まえた、事業の継続性という観点における信頼性も考慮する必要があります。

導入した電子契約サービスをある程度の期間利用して習熟し、当該サービスで利用されるサーバーコンピューターに締結済みの契約書PDFファイルが多数保管されている状態で、当該サービスが廃止されるようなことがあれば、他社の電子契約サービスに乗り換える手間が生じることになるためです(過去の契約書PDFファイルを移管する手間も生じます。)。

特に、事業者署名型(立会人型)電子契約を利用することを選択した場合には、契約書PDFファイルに対して電子契約事業者の署名鍵による電子署名が付されるところ、連載第4回で説明した「長期署名」の観点からは、繰り返しのタイムスタンプの付与を求める主体としての電子契約事業者が存続していることが必要であり、(他社サービスに乗り換えて長期署名を確保することも可能であるとは思われるものの)電子契約サービスを提供する電子契約事業者について、相当程度の事業の継続性が確保されている必要があるといえます。

(3)弁護士法との関係

また、いわゆるリーガルテック企業の提供する契約書作成及びリーガルチェックに関するサービス等の中には、弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)との関係で問題があると評価される可能性がないとはいえないものも含まれているように思われますので、電子契約事業者がそのような(弁護士法との関係で問題の生じ得る)サービスを提供していないか、という点も考慮する必要があります。

仮に、電子契約サービスを提供する電子契約事業者が、契約書作成及びリーガルチェックに関するサービス等も提供しており、かつ、弁護士法72条との関係について十分な注意が払われていないような場合には、当該電子契約事業者が事後的に弁護士法違反を理由に(電子契約サービスを含めて)サービス廃止等に追い込まれて、当該サービスで利用されるサーバーコンピューターに保管されている多数の締結済みの契約書PDFファイルの扱いも不透明になるというリスクがあり得ますので、弁護士法との関係について慎重な検討がなされているかを念のために確認する必要があるといえます。

電子契約が民事訴訟において問題とされた実例の有無

電子契約の導入を検討する企業・組織等からは、電子署名を用いるタイプの電子契約が民事訴訟において問題とされた実例の有無を聞かれることも多いところです。電子契約を巡る実際の紛争において、裁判所が電子契約の証拠価値を認めた実例があれば、安心して電子契約を導入できると考えて、そのような確認をするものと思われます。

もっとも、現時点では、判例検索サービスなどを用いて裁判例を検索しても、また、著者においていくつかの電子契約事業者に照会しても、電子署名を用いるタイプの電子契約が民事訴訟において実際に問題とされて、電子契約について契約の締結・成立それ自体が争われた判例・裁判例は(先例としての価値が限定的であると思われる後記コラムの事件を除いては)確認できていないところです。

もっとも、最近の電子署名を用いるタイプの電子契約の利用の広がり(連載第3回のコラム「電子署名を用いるタイプの電子契約の利用の広がり」参照)からすると、電子署名を用いるタイプの電子契約が民事訴訟において問題とされる事例が生じるのも時間の問題であると思われます(なお、伝聞ですが、事業者署名型(立会人型)電子契約について、訴訟係属中の事案があるようです。)。

また、電子契約が証拠として裁判所に提出された民事保全事件(債権仮差押命令申立事件)は、著者が関与しただけでも、複数件存在します(当事者署名型電子契約のケースも、事業者署名型(立会人型)のケースも、いずれも存在します。)。そして、それらの事件の債権者審尋の場において、裁判所に対して電子契約の仕組み等について説明した経緯があり、電子契約に対する裁判所の理解も進んできているように思われます。

なお、訴訟事件や民事保全事件において、実際に、電子契約をどのように利用するか(証拠として提出するか)、そして裁判所に対して電子契約の仕組み等についてどのように説明するかについては、連載第9回で解説します。

コラム:東京地判令和元年7月10日(貸金返還等請求事件)の先例的価値

電子署名を用いるタイプの電子契約により契約を締結した当事者間で、被告の電子署名が被告の意思に基づく電子署名であるか否かが争われた裁判例として、東京地判令和元年7月10日(貸金返還等請求事件。D1-Law.com第一法規法情報総合データベース掲載〔29057497〕)があります。

この裁判例では、被告(同事件被告3名のうち、法人である被告。本コラムでは、当該被告を指すものとして、単に「被告」といいます。)は、「相互極度貸付契約書」(PDFファイルであると思われますが、判決書からは明らかではありません。)に付与された被告名下の電子署名(ただし、判決書からは、誰の署名鍵による電子署名かは判然としません。)は、原告が被告に無断で行ったものであると主張しましたが、裁判所は、契約締結後の事情などを踏まえて被告の当該主張を排斥し、当該「契約書」上の被告名下の電子署名は被告の意思に基づくものであると認めるのが相当であると判断しています。

この裁判例は、電子契約について契約の締結・成立それ自体が争われたものではありますが、①契約当時は被告は原告の子会社であり、原告が被告に多額の貸付を行ったとされる時期より後に被告が原告の子会社ではなくなり、その後に被告が借入の事実を争うに至ったという経緯があること、②契約当時、被告が原告に対して被告の銀行口座の通帳や実印、印鑑カードを預託しており、原告が被告の経理業務及び対外的な契約等を行っていたこと、などが判決書において認定されており、これらの特別な事情を踏まえて、誰が実際に被告名下の電子署名を付与したのか(また、誰の署名鍵による電子署名が付与されていたのか)については何ら判示することなく、契約書上の被告名下の電子署名は被告の意思に基づくものと判断したものであり、(判決書には明示の記載はありませんが)被告名下の電子署名付与行為も被告の代わりに原告が行っていたことを裁判所が想定していたようにも思われるところです。

以上の事情からすると、この裁判例はかなり特殊な事情の下での裁判所の判断を示したものであって、その先例としての価値は限定的であると考えられます。

連載予定

※第8回以降の項目は予定。

著者紹介

圓道 至剛(まるみち むねたか)

2001年3月 東京大学法学部卒業
2003年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2009年4月 裁判官任官
2012年4月 弁護士再登録(第一東京弁護士会)、島田法律事務所入所
現在 島田法律事務所パートナー弁護士

民事・商事訴訟を中心に、金融取引、不動産取引、M&A、日常的な法律相談対応などの企業法務全般を取り扱っている。

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