不動産売買契約を電子化する方法、メリット、法改正のポイント、実務フロー、導入の注意点を解説【弁護士監修】

不動産売買契約は、2022年5月の宅地建物取引業法改正により電子契約で締結できるようになりました。重要事項説明書(35条書面)、売買契約書(37条書面)、媒介契約書(34条の2書面)のいずれも電子交付が認められ、IT重説とあわせれば、原則として申込から締結までを非対面で完結できます。
一方で、公正証書が必要な契約類型や、契約後の不動産登記手続きなど、電子契約サービスだけでは完結しない領域も残っています。
本記事では、不動産売買契約の電子化について、法改正の要点、電子化できる書面の範囲、印紙税の節約を含むメリット、導入の実務フロー、注意点などを解説します。
この記事の要点
- 重要事項説明書(35条書面)、不動産売買契約書(37条書面)、媒介契約書(34条の2書面)は、いずれも電子交付が可能。ただし取引の相手方の承諾が必要
- 電子契約は印紙税法上の課税文書に該当しないため、収入印紙が不要になる
- 事業用定期借地契約など公正証書が必要な契約は、2025年10月から電子公正証書での作成が可能になったが、公証役場のシステムを通じて作成する
- 契約後の所有権移転登記は、電子契約書をそのまま使えないため、司法書士との連携フローを事前に決めておく
なお、不動産売買契約書そのものの記載事項やチェックポイントは「【弁護士監修テンプレートあり】不動産売買契約書とは?主な記載事項・チェックポイント・収入印紙の要否などを解説」、不動産業界全体での導入メリットは「不動産業における電子契約導入のメリット、解禁の経緯とは?電子化の成功事例を交えて解説」で解説しています。
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目次
売買契約書と37条書面について
売買契約書とは、ある物やサービスの売買において、対価や支払方法などについて当事者双方が同意した事項を記載した文書です。
売買そのものは口頭でも成立しますが、不動産のように取引金額が大きく権利関係も複雑になる取引では、契約書に条件を明記しておくことで後のトラブルを防げます。
不動産の売買契約書には、対象や取引形態に応じて次のような種類があります。
- 土地売買契約書
- 建物売買契約書
- 土地・建物売買契約書
- 借地権付建物売買契約書
- 区分所有建物売買契約書
- 農地売買契約書
それぞれの記載事項やチェックポイントは「【弁護士監修テンプレートあり】不動産売買契約書とは?主な記載事項・チェックポイント・収入印紙の要否などを解説」で解説しています。
不動産売買における37条書面
宅地建物取引業者が当事者として不動産を売買したときは、相手方に対して契約事項を記載した書面を交付しなければなりません。また、宅地建物取引業者が当事者を代理して契約を締結したとき、または当事者間の媒介を行って契約が成立したときは、当事者双方に対して契約事項を記載した書面を交付することが義務付けられています。
これらの宅地建物取引業者が交付すべき書面は「37条書面」「契約締結時書面」などと呼ばれています。実務上は、不動産売買契約に必要事項を記載して37条書面を兼ねる運用が一般的です。
したがって「不動産売買契約の電子化」とは、狭義にはこの37条書面の電子交付を意味します。もっとも、宅地建物取引業者が関与する不動産の売買については、重要事項説明書や媒介契約書といった他の書面の電子化についても検討を要します。
法改正による不動産電子契約の全面解禁
かつての不動産取引では、宅地建物取引業法をはじめとする法令により、書面の交付や押印が厳格に義務付けられていました。
しかし、デジタル社会の形成を目的とした近年の法改正により、これらの規制が緩和され、電子契約の導入が法的に可能となりました。ここでは、不動産取引の電子化を解禁した主要な法改正のポイントについて解説します。
2022年宅建業法改正のポイント
かつての不動産取引では、宅地建物取引業法などにより書面の交付や押印が義務づけられていました。デジタル社会の形成を目的とした法改正によってこれらの規制が見直され、各種書面の電子交付が可能になっています。
2022年5月より施行された宅建業法改正により、不動産売買で用いる以下の書面について、依頼者や相手方の承諾を得た場合に電子交付が認められました。
- 重要事項説明書(35条書面)
- 売買契約書・賃貸借契約書(37条書面)
- 媒介契約書(34条の2書面)
- レインズ登録証明書
上記の改正により、宅地建物取引業者が関与する不動産取引について作成される主要な書面は電子的に交付できるようになりました。一部の例外を除き、不動産売買を電子的に完結させることが可能となっています。
公正証書が必要な契約と手続きのデジタル化(2025年10月改正)
2022年の宅建業法改正で不動産関連書面の電子化は広く可能になりましたが、事業用定期借地権設定契約は「公正証書」による締結が義務づけられています(借地借家法23条3項)。
公正証書を作成する場合、従来は公証役場等における対面での手続きが必須であり、公正証書の原本は紙で作成されていました。2025年10月1日から公正証書の作成手続きがデジタル化され、Web会議システムによるリモート方式での手続きが可能となり、公正証書の原本も電子データ(電子公正証書)によって作成・交付されるようになりました。
電子公正証書の実務上の注意点
事業用定期借地権設定契約の公正証書は電子化されましたが、公証役場の専用システムを利用して作成されるため、クラウドサイン等の民間電子契約サービスだけで手続きを完結させることはできません。実務においては、クラウドサイン等を「事前の契約書案の共有・合意」に活用することが考えられるものの、最終的な本締結は公証役場のフローに従います。
書面(紙)が必要な契約
不動産関連の取引の中で「農地の賃貸借契約」については、農地法21条において現在も書面要件が残っています。そのため、2026年時点でも電子化は認められておらず、引き続き紙の書面での作成が必須となりますのでご注意ください。
電子化できない書類の全体像は以下の記事で詳しく解説しています。
不動産売買契約を電子化する4つのメリット
不動産売買契約を電子契約で締結する場合の主なメリットは、次の4つです。
メリット1. 印紙税が不要になる
書面で不動産売買契約書を作成する場合、契約金額に応じた収入印紙の貼付が必要です。不動産売買は取引金額が大きいため、印紙税の負担も大きくなります。
電子契約は印紙税法上の「課税文書」に該当しないと解釈されているため、収入印紙が不要です。
印紙税額の考え方については「収入印紙とは?必要な金額・買い方・貼付位置まで初心者向けに完全解説」をご覧ください。
メリット2. 業務効率化と関連コストの削減ができる
印紙税以外にも、契約プロセス全体が効率化されることで、さまざまな関連コストが削減されます。
印刷・郵送コストの削減
印刷費用、用紙代、インク代、郵送費用、持参のための交通費が不要になります。
契約締結までの期間の短縮
郵送や持参のやり取りがなくなるため、契約締結までの期間が短くなります。契約書の作成から相手方の確認、署名、返送までがオンラインで完結し、数日から数週間かかっていた手続きを即日で終えられる場合もあります。
人件費の削減
契約書の作成、修正、発送、回収、ファイリングにかかる作業が減るため、その分の人件費を削減できます。
メリット3. 契約実務における利便性の向上につながる
電子化は、契約実務そのものの利便性を高めます。
場所や時間を問わず締結できる
遠方に住む顧客や、日中に時間を取りにくい顧客にとって、契約のために来店することは負担になります。電子契約であれば、インターネット環境があれば場所や時間を問わず手続きを進められます。
契約書の検索が容易になる
紙で保管している場合、過去の契約書を探し出すのに時間がかかります。不動産売買契約書は長期にわたって保管するため、数十年前の書類を探すこともあります。
電子契約であれば、取引対象の不動産、取引相手、取引日などの条件で検索して該当の契約書を見つけられます。
メリット4. 保管・管理の効率化とコンプライアンス強化ができる
契約書の保管と管理においても、電子化は大きなメリットがあります。
保管スペースが不要になる
契約書がデータで保管されるため、ファイルキャビネットや保管倉庫が不要になります。
真正性と非改ざん性の担保
電子署名とタイムスタンプにより、契約が誰によっていつ締結されたかを示せます。あわせて、電子帳簿保存法の要件に沿った形でのデータ保管が可能です。
不動産売買契約の電子締結フロー
不動産売買契約の電子締結を適切に行うためには、法規制の遵守や相手方との認識の共有などを図るため、次のフローを整えておく必要があります。
①業務フローの再構築とツールの選定
紙を前提とした従来の業務フローを見直します。どの文書を電子化し、どのタイミングで誰が署名・確認するのかを定めます。
あわせて、電子署名法や電子帳簿保存法の要件を満たす電子契約サービスを選定します。
②顧客・取引関係者への説明と事前承諾
宅建業法では、重要事項説明書(35条)や契約書(37条)を電子交付する際に相手方の承諾が必要とされています。
- 承諾の取得方法
メール、Webフォーム、同意書の締結など、承諾を得たことを記録に残せる方法で実施します。 - 顧客への説明
相手方が電子契約に不慣れな場合を想定し、印紙代が不要になること、来店が不要になること、操作方法、セキュリティについて説明できる体制を整えます。
③IT重説の実施
重要事項の説明をオンラインで行う「IT重説」を実施します。
- 事前準備
双方向の通信環境を確認し、電子化した重要事項説明書を事前に送付します。 - 実施
Web会議ツールを用い、宅地建物取引士は宅地建物取引士証をカメラを通じて提示し、相手方が明確に視認できたことを確認したうえで説明を開始します。
④電子署名の実施と契約締結
IT重説の後、双方が契約内容に合意したら、電子契約サービスから署名依頼を送付します。売主、買主がそれぞれ電子署名を行い、不動産売買契約が締結されます。
⑤電子データの交付と保管
締結した契約書を当事者全員に電子的に交付し、宅地建物取引業者においても保存します。電子帳簿保存法が定める要件(真実性・可視性)に従う必要があります。
電子契約が可能になった経緯や時期については「【2023年10月最新】不動産取引の電子契約化はいつから?宅建業法改正で重要事項説明書等の押印廃止・電子交付が可能に」をご覧ください。
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「電子契約はよくわからない、難しそう…」と感じている方必見の入門ガイドです。電子契約の基本的な仕組みから、具体的なメリット、気になる法的有効性や安全性などを、5分で読めるようにやさしく解説したものです。
ダウンロードする(無料)不動産売買契約を電子化する際の5つの注意点
不動産売買契約の電子化はメリットが大きい一方で、導入にあたっては実務上の課題や法規制に関して、特に以下の5つの点に注意する必要があります。
取引先の承諾が必須
不動産売買に関連する書面を電子交付する際は、宅建業法に基づき、事前に相手方の承諾を得る必要があります。
承諾が必要な主な書類は以下の通りです。
| 文書名 | 根拠法令 | 必要な手続き |
| 不動産売買・交換の媒介契約書 | 宅建業法34条の2第11項、同12項 | 承諾 |
| 不動産売買・賃貸借契約の 重要事項説明書 |
宅建業法35条8項、同9項 | 承諾 |
| 不動産売買・交換・賃貸借契約成立後の 契約等書面 |
宅建業法37条4項、同5項 | 承諾 |
相手方に電子契約の利用経験がない場合は、サービスの内容と、電子化によって相手方が得られること(印紙代が不要になる、来店の手間が省けるなど)をあわせて説明してください。
業務フローの明確化・再構築が必要
紙のフロー(書類作成→印刷・製本→押印→郵送→相手方の押印・返送→保管)は、電子化によって大きく変わります。電子契約システムの操作方法、承認ルート、データの保管方法を定めた新しい業務フローを作り、関係者が参照できるマニュアルを整備してください。
セキュリティ対策が必要
電子化された契約書は、対策が不十分な場合、改ざんや情報漏洩のリスクがあります。電子署名とタイムスタンプにより、いつ、誰が、何を契約したかを示せるサービスを選定してください。
不動産登記実務の事前確認が必要
電子契約を導入する際は、契約後の所有権移転登記の手続きについて、事前に司法書士と確認しておく必要があります。これは電子契約サービス側の問題ではなく、登記のオンライン申請の要件と、実務上の運用に差があるためです。
登記オンライン申請の要件
不動産の所有権移転登記をオンラインで申請する際、法務局が添付情報(登記原因証明情報)として求める電子署名は、マイナンバーカードによる署名(公的個人認証)または商業登記電子署名などに限られています。
実務上の運用との差
一方、広く利用されている電子契約サービスの多くは、立会人型(事業者署名型)の電子署名を採用しています。この署名タイプは契約の証拠力としては足りますが、そのままでは上記の登記オンライン申請の要件を満たしません。
立会人型と当事者署名型の違いについては「事業者署名型と当事者署名型の違い」で解説しています。
実務上の対処法
電子契約サービスで売買契約を締結すること自体は、宅建業法上も問題ありません。その後の登記申請では、多くの場合、司法書士が手続きを代行します。その際は次のような流れで対応するのが一般的です。
- 電子契約書(売買契約書)を締結する
- 登記申請のために、司法書士が別途「登記原因証明情報」や「登記委任状」を作成する
- その書面に対し、売主・買主が紙で署名・押印するか、登記申請の要件を満たす電子署名を行う
「契約は電子、登記手続きは司法書士と連携した別フロー」という運用を、事前に関係者と決めておいてください。
電子帳簿保存法の要件を守った保管が必要
契約書を電子データで保存する際は、電子帳簿保存法に沿って行う必要があります。タイムスタンプの付与や、訂正・削除の履歴が残るシステムを利用するなど、改ざんを防止する「真実性の確保」が求められます。
要件に違反した場合、追徴課税などの対象となる可能性があります。
データ保存の要件は「電子帳簿保存法で定められた契約書の「データ保存」要件とは 適法な保管・保存方法を解説」で解説しています。
不動産業界における電子契約の導入事例
電子契約の導入は、多くの不動産事業者の業務効率化に貢献しています。クラウドサインを導入して成功した事例をいくつかご紹介します。
- 三菱地所株式会社様
導入1年で数千件の契約を電子化。契約処理のための出社が不要となり、テレワーク下での業務継続性を実現しました。 - 株式会社千葉ステーションビル様
年間1000件を超える「ペリエ」のテナント契約(定期建物賃貸借契約など)の更新業務にクラウドサインを導入。契約締結までの期間が1〜2日に大幅短縮されたほか、アラート機能によるシステマチックな契約管理を実現しました。 - 株式会社MJE様
シェアオフィス運営などの不動産ソリューション事業を展開。オフィス機器のメンテナンス時における「作業完了報告書」の署名・承認プロセスに導入し、従来2〜3日かかっていた処理が現場で即時完結。管理部門の催促業務の削減と、将来的なデータ活用基盤の構築を実現しました。
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まとめ
不動産売買契約の電子化について、電子化できる書面の範囲、法改正の要点、メリット、実務フロー、注意点を解説しました。
2022年5月の宅建業法改正により、重要事項説明書、売買契約書、媒介契約書のいずれも電子交付が可能になっています。印紙税がかからないこと、締結までの期間が短くなること、契約ファイルの管理がしやすくなることなどが主なメリットです。
一方で、取引先の承諾が必要な点、公正証書が必要な契約類型の扱い、契約後の登記手続きとの連携などについては、導入前に確認しておく必要があります。
不動産業界での電子契約の活用について、ご興味がおありの方は以下の資料をダウンロードしてご活用ください。
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クラウドサインではこれから電子契約サービスを検討する方に向けた「クラウドサイン サービス説明資料」をご用意しました。クラウドサインの特徴や使い方を詳しく解説していますので、ダウンロードしてご活用ください。
ダウンロードする(無料)不動産業界における電子契約の活用方法、契約類型ごとの実務の変化、導入事例は「不動産業界のご担当者様へ」にまとめています。あわせてご覧ください。
なお、クラウドサインでは売買基本契約書のひな形をご用意しました。無料でご入手できますので、売買取引における取引先との契約締結に今すぐ使えるWord形式のひな形をお探しの方は下記リンクからダウンロードしてご活用ください。
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この記事の監修者
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
この記事を書いたライター
弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部
電子契約サービス「クラウドサイン」を運営する、弁護士ドットコム株式会社の編集部です。電子契約・電子署名法・電子帳簿保存法のほか、契約管理、契約審査・レビュー、AIを活用した法務業務の効率化について解説しています。法令の解釈にかかわる記事で弁護士等の専門家による監修を受けている記事には、記事末に監修者名を表示しています。
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