税理士法人レガシィ
副代表/代表社員パートナー 天野大輔様
資産税コンサルティング事業部 BPR責任者 古田圭佑様
人事部 チーフ 細貝広貴様
日本最大級の相続に特化した税理士事務所、税理士法人レガシィ。相続税申告、相続対策などを含めた案件実績は累計2万件を超えており、単純な相続税申告にとどまらず、相続に関わる不動産などのお悩み相談、売却手続きなど、お客様に対するサポートをワンストップでご提供していることが特徴です。
クラウドサインの導入経緯や、社内普及させるための取組・工夫についてお話を伺いました。
アナログな世界の相続業務への危機感からクラウドサインを導入。
デジタル化やDXといったところに積極的に取り組まれていると伺っています。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)に関わる専属スタッフにも加わってもらい、数年前から本格的にデジタルに注力してきています。相続という昔からある法的な業務となると、お客様が紙でしか情報をお持ちでなかったり、行政も紙でしか申告を受け付けていなかったりして、アナログな世界にとどまりがちです。ここをデジタル化していかに社内の生産性アップ、負担軽減するかを考えていました。
今後日本は働き手が少なくなりますし、社会的にも働き方改革が叫ばれています。そこに対応していかなければならないと危機感をもち、その一環でクラウドサインを導入したということになります。
スピード感で顧客の不安を取り除きたい。そのためにデジタル化は不可欠。
業界トップクラスの実績を誇る法人として、サービス品質や顧客対応において大事にしているのは何ですか。
天野様
お客様からすると、求められるのはやはりスピードなのかなと感じています。ただ速ければいいというものではありませんが、お客様とのこまめな連絡はもちろんのこと、スケジュールをしっかり共有したうえで、いつまでに何をするかを明確にするなど、約束通り役割を果たしていくことが非常に重要だと考えています。当たり前のことではありますが、それがきちんとできているところは少ないかなと感じています。
相続という手続きの性質上、申告が完了するまで比較的長期のお付き合いになります。大事な方を亡くされたお客様が不安を抱えているなかで進めていく、とてもセンシティブな業務です。しかもご高齢の方が亡くなった場合、お客様となるのはそのご子息・ご息女で、年齢はだいたい50~60代。そうした世代の方々は手続きに時間がかかると不安が増してしまいます。当社としては、それに対して高い生産性と効率という面で支援していかなければなりませんから、業務のデジタル化は不可欠でもありました。
決め手は、弁護士ドットコム運営という信頼性と安心感。
クラウドサインの導入をどのように進めていったのか教えていただけますか。
天野様
このコロナ禍で出社が難しくなったこともあり「ハンコレスにしていくべき」という方針が掲げられ、私がそのプロジェクトを立ち上げました。いろいろな選択肢が考えられましたが、まずは人事として組織全体が見えていて、事務手続きについても把握している細貝が主体となって進め、古田がBPRの責任者として社内普及を担当する形でクラウドサインを導入していくことにしました。
細貝様
クラウドサインは、弁護士ドットコムが運営しているという信頼性と、国内シェアNo.1であることが決め手となりました。多くの企業、銀行や大企業も利用していて、しかもサンドボックス環境で事前に社内テストもできます。サポートの対応スピードも早く、今後長く利用していくにあたって安心材料が多いと感じました。また、低コストで導入でき、お客さまにとっても、利用するメンバーにとっても、操作が簡単であることもポイントでした。
紙の契約書だと面倒が多く押印完了にも時間がかかる。
クラウドサイン導入以前は、どんなところに課題を感じていましたか。
古田様
以前は紙の契約書だったわけですが、紙だとその後の管理もずっと紙のままなってしまいますし、データ化するにもスキャンの手間がかかります。紙の原本の管理についても、一時的に保管する場所を確保しなければならず、お客様に返却する際には封筒に入れて簡易書類などで郵送しなければならないなど、何かと面倒が多いのは課題だったと思います。
天野様
今は、お客様と我々との間で結ぶ、相続業務関連の業務委任契約書をメインに、クラウドサインを利用しているんですが、お客様にはご高齢の方が多く、手厚くご案内することが大切です。元々、ご自宅でお話を伺って、そこでご契約という形が多かったのですが、記入していただいた紙の契約書はオフィスに持ち帰って押印しなければなりません。その押印が完了するまで、場合によっては数日かかることもありました。ですから、ハンコレスにすることがスピードアップの鍵になることは間違いありませんでした。
普及のポイントは「まず1回使ってもらう」「推進役の任命」「利用率の見える化」。
電子契約の社内普及をどのように進めていったのでしょう。
古田様
紙文化が根強い業界ですから、なぜデジタルにする必要があるんだ、とみんな思うわけです。すでに紙で問題なく契約ができているし、そのために何十時間も余計な業務が必要になっているわけでもない。そういう意識を変えるのは本当に難しくて、デジタルにしますと言ってもただちに変わらないものです。
ですので、そもそも「意識を変える」という発想はいったん捨てて、とにかく使ってもらおうと。使ってみれば便利で楽になるとわかってもらえるはずなので、まずは最初の1回目をやってもらうことに注力したんです。全体にアナウンスして、チーム単位でもみんなに伝えていく。使い方がわからない人には個別に説明もして、とにかく1回やってもらいました。それで「どうだった?」と聞くと、「思ったより楽だった」という反応が返ってきます。ほらねって思いましたね(笑)。
天野様
そのように社内で広げていくにあたっては、取り組み方を工夫しました。お客様と直接やりとりする部門はいくつかのチームに分かれているんですが、そのチームごとにクラウドサインの推進役を1人ずつ任命したんです。
古田様
私が各チームの推進役の人たちを統括し、推進役の人は同じチームのメンバーに積極的にクラウドサインを利用するよう働きかける、という構造です。導入の全体的な担当者は細貝ですが、何かわからないことがあったときに、すぐに相談できる距離にいるわけでもありません。そんな場合でも、同じチームの、隣に座っている推進役の人になら聞きやすいですよね。
天野様
そのうえで、クラウドサインの利用率がどれくらいか見えるところに掲示しつつ、定期的に推進役とグループ長の人に報告してもらうようにしました。メンバー1人1人について、お客様と何件契約して、そのうち何件がクラウドサインだったのか。利用率を比較するようにして、電子化が進んでいるかどうかを見える化し、意識を高めていくようにしました。
古田様
個人単位で集計して比較するのは、メンバーからすれば嫌な気持ちになるものかもしれません。ただ、具体的な数値にしないと「そこそこやってます」みたいにあいまいな会話で終わってしまいますし、チーム単位の集計であっても、たとえば利用率が4割だったときに残りの6割はどこがボトルネックになっているのかはっきりしません。だからこそ、紙での契約とクラウドサインでの契約の件数を個人単位で比較できるよう、毎週更新して見られるようにしたんです。
嫌がる方についてはどう対応されたのでしょう。
古田様
もちろん、そう思う人の気持ちもわかります。でもクラウドサインで電子化を「進める」という大前提があるので、そのためにどうするかを考えるしかありません。使い方がわからないという人には推進役が相談に乗り、細貝が丁寧なマニュアルを作ってくれたので、それをみんなが参照しやすいところに置くなど、困っている人にはとにかくしっかりケアしていきました。
利用率が低いからといって誰かを責めるために数字を出すわけではない、という話もしました。現状を把握するためのもので、利用率が低ければ、むしろそこに伸ばせる可能性があるんだ、ということをわかってほしかった。利用率の低い人は、もしかすると使い方がわからなくて困っているかもしれません。そうであれば、推進役の人が声をかけるきっかけになり、解決につながります。
お客様への伝え方を工夫して紙契約を回避。
本人がクラウドサインを使いたくても、お客様の方が不安で紙にしたいと言われるケースもあるかと思います。
古田様
そういう場合は無理に使わなくてもいい、ということにしています。お客様が嫌がるものを押し付ける必要はありませんので。ただそうは言っても、お客様へのご案内の仕方によるところもあるんですよね。「紙とデジタルがありますが、どちらがいいですか。もちろんどちらも費用はかかりません」という聞き方をすると、「じゃあ紙で」ってなっちゃいますよね。
絶対に紙にしたい、というお客様には無理強いしませんが、メンバーに対しては「お客様に案内するときの言い方は考えましょう」と話しました。たとえば「うちは電子でやってます」と最初にお伝えして、クラウドサインについてごくごく簡単に説明する。それでだいたいうまくいくんです。
管理職も、契約締結の状況がいつでもWEBで確認でき、工数の削減に。
導入したことによる成果や変化を実感しているのはどんなところですか。
細貝様
管理上は、契約書の郵送費用と、我々の方で負担している印紙代もなくなるのが大きなメリットだと思っています。メンバーの話では、お客様に契約書をお送りするまでの間に保管しておく必要がなくなった、という利点もあったようです。責任者も、どのお客様に誰がいつ契約書を送ったのか、最後まで常に把握しておかなければなりませんが、クラウドサインではいつでもその状況がWebなどで確認できるので、業務上の工数削減という意味でも効果があるようです。
悩む前にまずチャレンジ。そして社内普及のポイントは人選。
最後に、これからクラウドサインを活用しようと考えている企業に向けてアドバイスやメッセージをいただけますか。
天野様
まずチャレンジしてみることをおすすめしますが、その際には社内での普及担当を誰にするかが重要です。我々にとって一番大きなポイントは人選だったと思います。
会社にはいろいろな部署があり、いろいろな人がいると思いますが、社内普及を進める人物は、所属する部署や保有しているスキルがなんであれ、今の課題をなんとかクリアしたいという熱を持っている人、慣習に流されず、対人コミュニケーションに秀でている人が適任ではないかと感じています。
古田様
チームの推進役を決めるときは、その人が前向きかどうかを見極めることが大事です。それから、導入後にはメンバーからいろいろな意見をもらうことになりますが、前向きな人は「もっと活用したいから」という意味で言うものですが、後ろ向きな人は「これだからできないんだよ」という意味で言うものです。そこを見分けられないと、後ろ向きな人から指摘された部分を改善したところで、また次の「できない理由」を見つけてくるだけなんですよね。その人が根底でどういう意図を持って言っているのかを見分けることが非常に重要だと感じました。
細貝様
これから導入される方に対しては、不安もあるかとは思いますが、導入してから悩めばいい、と言いたいですね。推進を担当していると、みんなに使わせようという気持ちが前に出すぎてしまいがちですが、それでは逆効果です。相手目線に立って、どうすればみんなが使いやすくなるのか、クラウドサインにしたことで現場では逆にどこがネックになっているのかを考えて、テンプレートや書類の内容を見直すなどしてそのギャップを埋めてあげることが大事です。
あとは社内からのクラウドサインに関するたくさんの問い合わせに対して、丁寧に、できるだけ早くレスポンスすることですね。そうすると信頼感が高まりますし、それによってクラウドサインのようなツールに向かう1人1人の気持ちも変わってくるはずですから。