製造業

100年企業のDXの一手に電子契約。地道な普及活動と改善の繰り返しが実を結ぶ

  • 2022年10月5日(水)

江崎グリコ株式会社
法務部 契約グループ グループ長 橋本様
法務部 契約グループ 梅村様
法務部 契約グループ 小山様

 

2022年2月に創立100周年を迎えた江崎グリコ株式会社。多くの人に長く親しまれているお菓子をはじめ、健康を意識した食品・サプリメントなどを製造・販売する、言わずと知れた老舗企業です。そんな同社でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が経営課題の1つに掲げられ、デジタル化によるペーパーレスの動きが本格化。契約の電子化でそれを推し進めるため、2020年にクラウドサインを導入しました。

社内の雇用契約書においてはすでにほぼ100%電子化し、社外との契約でもクラウドサインの利用が広がっているところ。大企業ではなかなか進みにくいと言われる社内普及をどんな工夫で乗り越えていったのか、導入を主導した法務部門の方に話を伺いました。

分厚い過去の契約書の中身も電子契約ならすぐに検索できる

はじめに、電子契約の導入を検討することになった経緯を教えていただけますでしょうか。

橋本様
2019年から全社で業務プロセスのDXを図り、ペーパーレスを推進していくという方針があり、法務分野でも何かできることがないかを考えていました。そこで、紙で締結している契約を電子化すれば、紙を減らすことができ、契約業務を効率化できるということで検討を始めたのが最初のきっかけです。ただ、紙の契約業務に慣れていたこともあって、当初は一気に電子契約へ移行しようという機運がなかなか高まりませんでした。

そんななか、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が基本になり、物理的に押印ができないという問題にぶつかりました。一方で、クラウド型電子署名サービスの法的な有効性が正式に認められ行政においても電子契約が利用できる場面が増え、経営層のなかでも電子契約サービスというものに安心感が出てきました。こうした外部要因と法的根拠から、2020年になって電子契約の導入がスタートしました。


当社の創業の精神には「事業を通じて社会に貢献する」というものがあり、現代の環境問題などを踏まえた情勢の変化を踏まえると、紙を使い続けるのは良くないという問題意識は経営層だけでなく社員1人1人にもありましたから、その一環として電子化していくのは必然だったと思います。

紙で契約していたときの業務上の課題感としてはどんなものがありましたか。

橋本様
まずは物理的なコストです。紙や封筒、印紙のコストはもちろんですが、印刷・製本する手間がかかるという人的なコストもありました。また、我々法務部門としては、締結済みの契約書の内容を後で検索しにくいという点も課題になっていました。締結済み契約書をスキャンしてPDF化し、自社の契約書データベースに登録するという運用はしていましたが、スキャンしたものは画像なので中身の文字情報が抽出できず、検索項目として使えるのはデータベース登録時に設定した相手先の名称や契約概要くらいです。

過去の契約書を見返す場面は多々あります。なかには50ページ、100ページにも及ぶ分厚い契約書もあって、数年前に締結したものだと細かい内容まではさすがに覚えていません。紙の契約書はビデオテープみたいなもので、最初から順番に見ていかないといけませんから、必要な情報を見つけるのに時間がかかります。

でも最初から電子化されていれば全文検索して目的の内容を探せます。デジタル化された動画ならシーンごとのサムネイルから見たい箇所を見つけられるように、電子契約書の場合も中身をすぐに検索して求めていた情報にたどりつける。電子契約を導入することで、過去に締結した契約書の使い勝手が根本的に変わりますよね。

法務部 契約グループ グループ長 橋本様

認知度の高いツールであるほどメリットは大きい

電子契約サービスにクラウドサインを選んだ理由を教えてください。

橋本様

電子契約サービスを導入するにあたって、経営層からは、紙の契約書と少なくとも同程度の安全性、確実性があることを求められていました。そのため、立会人型(※)のなかでも、信頼性が高い電子署名を付与しているサービスの導入が必須であったという点が1つ。

加えて、実際の業務オペレーションや取引先への説明コストを考えると、聞いたことのあるツール、実際に使ったことのあるツールで契約を締結できることがメリットになるのは間違いありません。多くの企業で使われている認知度の高いツールであるほどその可能性は高くなりますから、国内で現在最もシェアの大きいクラウドサインがいいだろうと考えました。

※立会人型電子署名とは署名鍵をクラウド事業者が準備して提供を行い、クラウドサインの場合は利用者がクラウド事業者に署名指図を行う方式。「事業者署名型(立会人型)」と「当事者署名型」の違い—電子契約サービスの分類と選び方

実際に試してみて、UI/UXがシンプルで非常に使いやすかったと感じたのも導入の後押しになったと思います。初めて使う人でも簡単に操作できるのがクラウドサインの良さですよね。

現在はどのような用途でクラウドサインを利用されていますか。

橋本様
取引先との業務委託契約、秘密保持契約、販売代理店契約、購買基本契約などのほか、人事部門では契約社員との雇用契約にも活用しています。有期雇用の契約社員とは毎年契約更新のたびに締結し直すことになりますので、氏名や給与の金額を変えるだけの定型フォーマットで、クラウドサインの一括送信機能を使って対応しています。また、取締役会議事録についても、取締役の方全員に議事録の確認・署名をしてもらうのにクラウドサインを利用しています。

社内での契約業務のフローを教えてください。

小山様
契約書の内容について契約相手との合意及び決裁が承認された段階で、各部署の担当者から契約管理担当窓口へ「電子契約締結保管申請書」というものを提出してもらうことにしています。申請書の中には、契約書のタイトルや送付先の情報を記載してもらうようになっていて、担当者はこの申請書の内容さえ埋めればいいという状態にしてあります。法務部門にて申請された内容を確認した後、申請書の内容を元に我々法務部門にてクラウドサインを使って契約書を送信しています。契約相手に承認され、契約締結したらその契約書を法務部門にて契約書データベースにアップロードして保管する、という流れになっています。

橋本様
各部署の担当者に直接クラウドサインを使ってもらう方法もあると思いますが、当社では基本的に我々法務部門でクラウドサインを送信する形にしています。各部署の担当者によっては年に1、2回しか契約を結ばない人もいて、いくらクラウドサインがシンプルで使いやすくても、パスワードを忘れてしまったり、利用ルールを忘れてしまったりして、適切に操作できない場合があるからです。

そうすると円滑な契約業務を実現できないだけでなく、使い方についての質問が我々の方に殺到してしまう可能性もあります。契約業務は事業部の人たちの本業の片手間でできるようなものでもありませんので、契約業務に集中できる人材を置いて対応することは必須だと考え、この運用にしました。

あえての送信先を複数設定することで締結のスピードをアップ

社内普及を進めていくところはスムーズにいったのでしょうか。

橋本様
新しいツールは最初のうちはどうしても利用が進みにくいものですが、一度でも利用してもらえば一気に利用が広がるように感じています。一度クラウドサインの概要や受信者側の操作方法などについて大規模な全社説明会を開いてからは、特に説明で苦労するようなことはなくなりました。それ以外に、各部署で契約業務を担当する人たちに積極的に声がけしたのも効果があったのだと思います。契約に関して我々から助言をする際に、「この内容だったら電子契約にできるよ」といったことをたびたび連絡して、電子化を意識してもらうようにしていました。

一度でも使ってもらえれば、紙よりずっと楽で、素早く締結できることに気付いてもらえるし、それ以降も電子契約を使うようになります。そういう人たちがどんどん増えていったことで全社に広がったのではないかと思います。とにかくトライアルしてもらえれば、次につながりますよね。

紙から電子に移行することについて社内から反発されるようなことはありませんでしたか。

橋本様
本社スタッフは、会社としてDXを推進していることもあって、前向きな方が多い印象でした。他方、工場の方々は仕事の性質上、毎日出社しなければならないので、出社して押印することにあまり抵抗感がなく、リモートで契約書をやり取りできるメリットを感じにくいところがあるようです。また、厳格に定められたオペレーションに則り仕事をしているので、新しいオペレーションを加えたり、置き換えたりするのに、他部門と比較して大きなエネルギーが必要となることも、導入に際しての課題の1つでした。ここについては、時間をかけて、現場に寄り添った仕組みを検討し、普及に向けた努力を続けています。

導入や運用をしていくにあたって他に苦労したところ、または工夫したところがあれば教えてください。

橋本様
導入前の段階で契約業務のプロセスを決めておく必要がありましたので、クラウドサインのテスト環境で電子契約の手順を再現し、過去の契約書管理における課題を振り返りながら手順を考えたりして、運用方法をきっちり固めていきました。もちろん運用開始後も小さな改善を常に積み重ねています。

梅村様
各部署の担当者から申請してもらっている「電子契約締結保管申請書」の体裁は最初私たち3人で決めたのですが、クラウドサインを導入して運用を進めていくなかで、申請者からよく問い合わせがあり、申請書を書く上でわかりにくいところ、案内すべき情報が不足しているようなところも出てきました。そういった部分は申請者の声を参考に、運用しながら随時修正しています。文字の大きさ、色分けなど、かなり細かく改善していったことで、申請者がわからない部分、戸惑うような部分はなくなってきていると思います。

小山様
運用時で言うと、契約書の宛先を設定するときの工夫も1つあります。あえて契約相手の本来の署名者の他に、契約相手の窓口でもある案件担当者も送信先に入れるようにしていることです。法務部の1担当者である私が契約書を送信して、いきなり契約書の契約相手の署名者である部長クラスの人だけに届いてしまうと、そういう方々は日常的に大量のメールを処理していたりして、クラウドサインからのメールを読み飛ばしてしまうことがあるんですね。

そのため、契約相手の窓口である案件担当者の方から本来の署名者の方にコミュニケーションをとってもらうために、送信時は案件担当者も宛先に設定しています。こういった使い方ができるのはまさにクラウドサインのいいところですよね。クラウドサインなら窓口である案件担当者のあとに部長クラスの承認者の方という形でフローを組めますし、同時に契約書の内容に問題ないかどうか案件担当者に最終的な確認をしてもらえるという意味でも利便性は高いと感じます。

複数社間の契約でスピードに劇的な差

現在の電子化率はどのくらいでしょうか。また、電子化率以外で導入による効果を実感するところはありますか。

梅村様
人事部が利用している雇用契約書では、すでにほぼ100%の電子化を達成しています。それ以外の業務委託契約など法務部が取り扱っている契約については、徐々に電子化率が上がっていて、直近ではおよそ62%(※取材時)が電子契約で締結しているという状況です。

小山様
クラウドサインの使い方がわからないという声は最初の段階からほとんどありませんでした。一度使ってもらった後はその後も続けて利用してもらえますし、朝のうちに契約書を送信しておいたら、その日の午後には締結が完了していることもあって、「本当にスピーディですね」という声を社内でよくいただきます。

橋本様
多人数が関わるような契約だとスピードには本当に劇的な差が出ますね。共同事業などで複数企業とNDAを結ぶようなときは、紙だとそれこそ1カ月くらいかかることもありました。しかし、クラウドサインだと早ければ1日で締結完了することもあります。そういった契約は事前の調整にも時間がかかりがちなので、その後の契約作業自体を短縮できるのはありがたいですよね。

導入のポイントは、経営の意思として電子化を推し進めること

今後クラウドサインをどのように活用していきたいと考えていますか。

橋本様
現状、紙の契約と電子契約のハイブリッドな状況ですが、紙契約は可能な限りゼロに近づけて電子契約に置き換えていきたいと思っています。また、契約内容をデータやナレッジとして活用していきたいとも考えています。契約業務の過程から締結完了までをシステム上で管理できるようにし、個々の契約内容を今後の契約交渉の場などでナレッジとして活用できるような仕組みを構築しようとしているところです。

それと、システム間の連携もよりシームレスにできればと考えています。当社グループでは、海外拠点での契約や、海外事業者との契約向けに使っている他の電子契約サービスもあり、複数のツールを一元的に管理するためのシステムの必要性が高まっています。そうしたシステムとクラウドサインの連携もよりスムーズにしたい。社内申請の審査から決裁、契約締結に至る流れのなかで、なるべく人の手を介さずにスムーズにつなげられるようになればと思っています。

最後に、これからクラウドサインを導入、またはより活用しようと考えている企業に向けてメッセージをいただけますか。

梅村様
クラウドサインのいいところは、自分が契約書を送るときだけでなく、送られてくる立場になったときにも安心感をもって対応できることです。視点を変えてみると、それは取引先などのお客様にとっても同じように言えるのではないかと思います。そういった意味でも早めに導入するのがおすすめですね。

小山様
クラウドサインは日本人の感覚に沿った作りになっている印象があります。手順を踏んで1つずつ操作していくだけできちんと電子で契約締結できるんだ、という安心感は大きいですね。相手が契約書の確認をし忘れているようなときも、リマインド機能ですぐに再送できるのも便利です。

橋本様
電子契約サービスの導入をスムーズに進めるには、いくつかポイントがあると思います。1つは、電子化を誰が推進するのか。おそらく大企業では、我々のような法務部門がクラウドサインを導入したいと言っても、会社側の理解をすぐには得られない場合が多いのではないでしょうか。ですから、取締役会に諮るなどして経営層に電子化を進める意思決定をしてもらい、そこに乗っかる形で進めるといいかもしれません。電子化が経営の意思だということを背景に推し進めることが、大きな変革を促すポイントかなと思います。

もう1つは、契約業務を担当する社内利用者としては、運用ルールが社内で固まっていないと使いにくいこと。あらかじめ運用ルールをしっかり固めて、社員に丁寧に説明して導入していくことが大事だと思います。その点、弁護士ドットコムはカスタマーサクセスをしっかりやってくれますので、その支援を最大限に活かして導入・説明のプロセスを進めていくことで、社内活用をうまく広げられるはずです。

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